MediLedgerとは?ブロックチェーンで医薬品流通サプライチェーンの実現可能性を探索するプロジェクト
2020年09月03日
この記事を簡単にまとめると(AI要約)
目次
- 前提
- MediLedgerプロジェクトの運営原則
- MediLedger概要
- 3つのコアテクノロジーとSUの取り扱い方
- ビジネスで求められるシステムとしてのパフォーマンス、及びMediLedgerCOOプロトコルのパフォーマンス
- 規格標準化と相互運用性に関する懸念
- 総論
前提
本レポートでは米国FDA(アメリカ食品医薬品局)のDSCSA(The Drug Supply Chain Security Act)に準拠するブロックチェーンベースの医薬品流通サプライチェーンの実現可能性を探索するMediLedgerプロジェクト(米国)のファイナルレポートを概観します。
FDAが2023年に導入を予定するDSCSAに基づく電子的に追跡可能な医薬品サプライチェーンシステムは、米国内で年間に取引されている45億個以上の医薬品を処理可能なシステムパフォーマンスが求められることはもちろん、医薬品流通サプライチェーンに参加する医薬品業者、再包装業者、卸売業者、流通業者など製薬業界全体を巻き込む必要性があります。このことから、追跡用の製品IDやバーコードの読み取りなどの業界標準に基づく規格開発、さらに近い将来に一つのシステムに業界全体が集約されるとは考えづらいため、異なるシステムとの相互運用性も求められます。
ファイナルレポートの結論として、求められるビジネス要件をブロックチェーンベースのシステムが満たせるのかという点については、「実現可能である」という結論に至っています。また各医薬品取引の機密性確保にはzk-SNARKsを活用し、取引上の機密情報などが漏洩しないように難読化されています。一方で今後の課題となる点も示されており、特に業界内システムの相互運用や認定取引先の識別などの標準規格の欠如については今後の開発を必要とするとしています。
またMediLedgerはなぜブロックチェーンベースのソリューションを探索しているのか、を端的に説明するならば、特定の組織の意向に依存しない「業界中立的なシステム」の必要性があるためと言えるでしょう。もちろん取引の不変性確保は重要な要素ですし、各組織間のサイロの解消もその目的ではありますが、ブロックチェーンベースでなくとも技術的には実現できることです。本プロジェクトの目的は医薬品取引情報の真正性確保により、疑わしい製品を迅速に特定し、リコールを容易に行えるようにすることですが、それを実現させるためにはサプライチェーンを構成する様々な利害関係者の参加が必須であり、それができなければ途中で追跡が断絶してしまうため、医薬品ライフサイクル全体の追跡が困難になりかねません。未来を予測することは難しいため何が業界を越えた協業を実現するのかはわかりかねますが、その実現の難しさは単に技術の問題ではなく、業界全体にとって真に中立的なインフラたり得るか、という点にあるのかもしれません。
本レポートではMediLedgerのファイナルレポートを参照し、その運営原則、プロジェクトの概要、今後の課題を概説します。
※免責事項:本レポートは、いかなる種類の法的または財政的な助言とみなされるものではありません。