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EthereumのPectraテストネット(ローンチ時)で発生した攻撃手法のメモ書き

2025年03月12日
リサーチメモ(masao i)
この記事を簡単にまとめると(AI要約)

※免責事項:このレポートは生成AIで作成されており、査読は行われていますが必ずしも正しいとは限りません。重要な情報は確認するようにしてください。

Pectraのテストネットが公開された矢先、予想外の攻撃が発生し、一時的にネットワークが機能しなくなる事態に。Ethereum のエッジケースを突いた巧妙な手法が使われ、開発者たちは緊急対応を迫られ、結果的にはメインネットにおけるPectraアップグレードの延期へとつながりました。この記事では、何が起こったのか、どのような仕組みで攻撃が成立したのか、Ethereumの今後への影響と界隈の反応を含めてメモ的にまとめます。Pectraの実装や Ethereum の設計、今後に興味がある人は、ぜひ目を通してみてください。
※Pectraの詳細解説は以下の有料レポートをご参考ください。
Ethereumの大型アップグレード、Pectraの概要 投資家に与える影響は?

攻撃手法の技術的詳細

参考文献:Marius van der Wijden, "Sepolia Pectra fork incident recap",March 8, 2025 (Sepolia Pectra fork incident recap – MariusVanDerWijden)
  • 攻撃概要: 2025年3月5日、Ethereumの次期大型アップグレード「Pectra」を実装したSepoliaテストネットがローンチされた直後、ブロックにトランザクションが全く含まれない「空ブロック」が連続して生成される異常事態が発生。原因調査の結果、Sepoliaのデポジットコントラクト(バリデータ登録用コントラクト)の動作不具合と、それを狙った攻撃が判明しました。攻撃者はEthereumクライアントのエッジケースなバグを突き、ネットワークを一時的に停止状態に追い込んだのです。

  • 具体的な技術的手法: 問題の発端は、Sepoliaで使用されたトークン制限付きのデポジットコントラクト(permissioned deposit contract)の挙動でした。通常、バリデータ登録時にはデポジットコントラクトからDepositedイベントが発行されますが、Sepoliaでは独自仕様としてERC-20トークンでアクセスを制限していたため、デポジット処理の際に誤ってERC-20のTransferイベントを発行してしまいました。Pectraに含まれる提案EIP-6110では「デポジットコントラクトから出力されるログは全て同一の方法で処理し、不正なイベントがあればクライアントはエラーを出す」という仕様が導入されており、そのため期待外れのTransferイベントを受け取った実行レイヤーのクライアント(Gethなど)は「デポジットデータのパースに失敗: 長さが不正(576バイトであるべきところが32バイトしかない)」というエラーを出し、問題のトランザクションを含むブロックを無効と判断しました。結果として、トランザクションを正常に含められるブロックがしばらく生成されずネットワークが空ブロックのみを掘る状態(事実上の停止状態)に陥ったのです。

  • 初動対応と新たなエッジケース: 開発者たちは直ちにこのバグの修正に取り掛かかり、デポジットコントラクトから発生する不正なログ(今回で言えば誤ったTransferイベント)を無視するようクライアントを修正するパッチを作成しましたが、ここで一つのエッジケース(隅付きケース)を見落としていました。ERC-20標準では「値が0のトークン転送」を明示的に禁止しておらず、残高を持たないアドレスでも0トークンのTransferを発行できてしまう仕様があります。この0トークン転送でも通常通りTransferイベントが発行されるため、先のバグ修正では対処しきれない抜け道が残されていたのです。

  • 攻撃の手口詳細: 不明の攻撃者はまさにこの抜け道を突きました。攻撃者はSepoliaのファウセット(テストネット用無料ETH配布サービス)で入手した新規アカウントを用い、デポジットコントラクト宛てに0トークンの転送トランザクションを繰り返し送信しました。0 ETH(実質的に価値のないトークン)の転送でもERC-20コントラクトはTransferイベントを発行するため、このトランザクションが含まれると再びクライアントがエラーを検知し、ブロックが無効化されてしまいます。攻撃者はこの手法で連続的に空ブロックを掘らせ続けることに成功し、当初の修正パッチの効果を無力化しました。通常、スマートコントラクトの脆弱性を突いた資金窃盗や、MEVを狙ったサンドイッチ攻撃などと異なり、本攻撃は経済的利益を直接得るものではなく、ネットワークの正常動作を阻害すること(サービス拒否的攻撃)が目的でした。0トークン転送自体は一見無害なトランザクションであるため、このように「無価値トランザクションでブロック生成ロジックを妨害する」手法はEthereumでは前例が少なく、新しいタイプの攻撃と言えます。

  • 類似する既存手法との比較: 既存の攻撃手法と比べ、この攻撃はプロトコルレベルのロジックのほころびを突いた点で異質です。例えばDeFiコントラクトの再入金(リエントランシー)攻撃や署名のリプレイ攻撃、MEVを利用したフロントランニング等はスマートコントラクトやユーザートランザクションの経済的ロジックを狙うものです。しかし今回の攻撃者は、Ethereumクライアント実装のバグというインフラ層の脆弱性を狙っており、一種のブロック生成に対するDoS攻撃(サービス妨害)でした。過去にもEthereumではガス消費の高い計算を大量投入してネットワークを遅延させるDoS攻撃(2016年のShanghai/Devcon2攻撃など)がありましたが、今回のケースは「特殊なイベントログを悪用してブロック自体を無効化させる」点で手法がユニークです。攻撃に用いられた0トークン転送自体はERC-20の仕様上合法な操作であり、スマートコントラクトのバグを直接突いたり不正なトランザクションを生成したわけではないという意味でも新しいアプローチでした。

Ethereumのエッジケース悪用と原因分析

  • 悪用されたEthereum仕様上の隙間: 攻撃者が利用した主なエッジケースは、前述のERC-20トークン標準における0値転送の許容です。ERC-20では残高不足でも0という値であれば転送処理を実行でき、その際には他の転送と同様にTransferイベントが発行されます。通常、この挙動は無害であり多くのアプリケーションで問題視されません。しかしPectraアップグレード後のSepoliaでは、この「0トークンでもイベントが出る」という仕様上の隙間が、デポジットコントラクトのバグと噛み合わさることで異常を引き起こしました。

  • デポジットコントラクト固有の要因: 今回の問題はEthereumプロトコル全体の欠陥というより、Sepoliaテストネット固有の実装要因が大きいと分析されています。Sepoliaではメインネットとは異なる「トークンゲート(許可制)のデポジットコントラクト」を採用しており、バリデータ用の特別なトークンを持つ信頼されたユーザーのみがデポジット(バリデータ登録)できる設計でした。このコントラクトはデポジット処理時に内部でERC-20の転送操作を行っていたため、Depositedイベントの他にERC-20のTransferイベントも発行してしまう構造になっていました。一方、Ethereumメインネットのデポジットコントラクトはそうしたトークンゲートを設けておらず、純粋にBeacon Chainへの預け入れイベント(Deposited)しか出力しません。実際、Ethereum FoundationのTim Beiko氏は「この問題はSepoliaの特殊な設定によるもので、Ethereumメインネットでは起こりえない」と明言しています。つまり、Ethereum本来の仕様の欠陥というより、テストネットならではの実装上のミスや想定漏れが原因でした。

  • 回避の難易度: Ethereumの仕様上、「0トークン転送を許す」こと自体はエッジケースではありますが不合理ではなく、本来であれば無視されるべき些細な事象です。したがって今回のケースは、プロトコルの限界というより実装上の見落としであり、適切にテストやコード上で対策していれば回避可能でした。実際、開発チームは攻撃発生後数時間で全クライアントに対し誤ったログに起因するエラーを無視するよう修正を加えたアップデートをリリースし、ネットワークは正常化しています。また、攻撃が起きたSepolia環境では「トークンを持つ信頼参加者しかデポジットできない」という前提があったため0トークン転送を考慮から外していましたが、これは結果的にセキュリティモデルの盲点となりました。このように「仕様上許されているが通常起こらない操作」に対する備えが不十分だったことが主因であり、Ethereumの設計そのものを改めねばならない致命的欠陥というわけではありません。

  • Ethereum仕様と実装の関係: 攻撃者に利用された現象はEthereumのプロトコル仕様上「バグ」ではなく仕様の想定外の使われ方でした。しかし、Pectraアップグレードで導入されたEIP-6110の振る舞い(ログの厳格な処理)がその想定外の事象と衝突したために問題が顕在化しています。ゆえに、今回の教訓としてEthereumクライアント実装者たちは仕様段階でエッジケースも考慮した設計・テストの重要性を再認識しました。例えば、EthereumJSの開発者Jochem Brouwer氏はデポジット処理の一貫性向上のためEIP-6110を修正する提案を行い、全クライアントで実装を統一しようという議論が持ち上がっています。一部の開発者からは「実装の詳細に過度に踏み込むべきでない」との反対意見も出ましたが、Go-EthereumのMarius van der Wijden氏は今回の問題はライブラリの差異ではなく「全クライアントが確実にparse_deposit_data機能を実装し、スペック通り動くようにすべきだ」と反論しています。このように、Ethereumの仕様そのものよりも実装とテスト体制の改善が再発防止策として議論されており、開発者たちは今回見つかったエッジケースを正式なテストケースに組み込むことで、将来的なアップデートで同様の穴が生じないよう努めています。

Ethereumの今後への影響と界隈の反応

  • Ethereum本体およびアップデート計画への影響: この攻撃により、当初2025年3月頃と見込まれていたPectraのメインネット適用は延期されることになりました。PectraはDencun以来の大規模アップグレードであり11個のEIPを含む複雑な内容のため、開発者たちはテストネットで発覚した問題を洗い出し十分に検証してからメインネットに適用する方針を改めて強調しています。実際、Sepoliaに先立ち2月下旬に実施されたHoleskyテストネットでのPectra適用でも最終化(ファイナリティ)の停止など技術的問題が生じており、両テストネットの不具合を踏まえて開発チームはPectra本番実施前にさらなる検証期間を設ける計画です。具体的には、Holeskyの状態を引き継いだシャドーフォークを新たに立ち上げて同じ状況下で再テストを行うなど、より万全を期したテスト戦略ACDC(Ethereum All Core Developers Consensus)コールで合意されています。こうした措置により、メインネット適用時には今回のようなトラブルの再現を防ぐ見込みです。

  • Ethereumのセキュリティへの影響評価: 幸いなことに、本攻撃によってEthereumの安全性そのものが損なわれる事態(例えばチェーンの巻き戻りや不整合な状態の発生)は避けられました。Beacon Chainの最終化 (finalization) は攻撃中も一度も失われておらず、チェーンの整合性は保たれていたと報告されています。問題はSepolia上でのトランザクション処理停止という一時的なサービス停止的影響に留まり、脆弱性の悪用による資産流出や恒久的ネットワーク分岐といったセキュリティ上の深刻な被害は発生していませんでした。開発者らは「テストネットの問題が本番で起きなかったのは不幸中の幸い」であり、テストネットでの発見がメインネットの強化につながると前向きに捉えています。実際、問題発生後にSepoliaは速やかに修正が行われ、「これまでで最も健康的な状態」と言えるほど安定を取り戻したとAlex Stokes氏(Ethereum財団リサーチャー)は評価しています。

  • 開発者コミュニティの反応: 開発者たちは今回のインシデントに対し迅速かつ慎重に対応しました。問題発生直後にEthereum Foundationブログで状況が共有され、原因がSepolia特有の設定にあること、メインネットには波及しないことが公式に説明されています。Go-EthereumチームのMarius氏は自身のブログで詳細な事後報告を書き、技術的な経緯を明らかにするとともに今後の改善点を示しました。特筆すべき点として、攻撃者が開発者のチャット(通信)を監視している可能性があったため、開発チームは一部のノードにのみ秘密裏にパッチを当てて対策を講じるといった異例の作戦も取られました。このように攻撃者と知恵比べをしつつも、約6~7時間後の14:00 UTCには全ノードへ正式修正を行き渡らせネットワークを正常化させています。コミュニティでは、開発者の迅速な対応と透明性ある報告を評価する声が多く聞かれました。一方で「想定外のケースとはいえアップグレード直後に問題が出たのは事実であり、今後も慎重なテストが必要」との指摘も専門家から出ています。今回の件を教訓に、開発者コミュニティ内ではテストケースの拡充や異常系シナリオのシミュレーション強化が議論・実施されており、Ethereumクライアントの堅牢性向上に繋げようとする動きが活発化しています。

  • 投資家・市場の反応: 市場においては、本件はテストネット上の出来事だったこともあり比較的冷静な受け止めとなりました。攻撃発生直後にイーサリアム価格が一時下落する場面もありましたが(週単位で見て約10%下落し2000ドルを割り込む局面があったと報じられています、開発者の迅速な対処と問題解決の報告を受けて不安は沈静化しました。むしろ、一部のアナリストは「開発チームが適切にバグを修正したことでアップグレードへの信頼感が保たれ、Ethereum価格は回復基調に向かうだろう」と前向きな予測を出しています。例えばCryptoQuantのアナリストは重要なサポートラインでの反発や今後数週間での需要増加を根拠に、ETH価格が$3000台に回復する可能性も示唆しました。このように、投資家コミュニティはPectraアップグレード自体への信頼を大きく損なうことはなく、「テストネットで問題を潰せたことは本番成功へのステップ」との見方が一般的です。一方、短期的な市場影響としてはアップグレード延期により強気材料が先送りされたためか、ETH価格が停滞気味になるとの指摘もあり、アップグレード完了までは様子見姿勢の投資家もいるようです。

参考文献:
  1. Marius van der Wijden, "Sepolia Pectra fork incident recap",  March 8, 2025 (Sepolia Pectra fork incident recap – MariusVanDerWijden)
  2. Tim Beiko, "Sepolia Pectra Incident Update", Ethereum Foundation Blog, March 5, 2025 (Sepolia Pectra Incident Update | Ethereum Foundation Blog)
  3. Stephen Katte, "Unknown attacker causes headaches during Pectra upgrade on Sepolia", Cointelegraph, March 10, 2025 (Unknown attacker causes headaches during Pectra upgrade on Sepolia)
  4. Rony Roy, "Ethereum’s Pectra upgrade on Sepolia testnet was targeted by unidentified attacker: report", crypto.news, March 10, 2025 (Ethereum’s Pectra upgrade on Sepolia testnet was targeted by unidentified attacker: report)
  5. Florence Muchai, "Ethereum’s Pectra upgrade on Sepolia faces disruptions, unknown attacker mines empty blocks", Cryptopolitan, March 10, 2025 (Ethereum’s Pectra upgrade on Sepolia faces disruptions, unknown attacker creates an empty block mining)
  6. CryptoCoin.News, "Ethereum Pectra Upgrade Attacked on Sepolia Testnet", CryptoCoin.News, March 11, 2025 (Ethereum Pectra Upgrade Attacked on Sepolia Testnet - CryptoCoin.News)
  7. Christine Kim, "Ethereum All Core Developers Consensus Call #152 Writeup", Galaxy.com, March 6, 2025 (Ethereum All Core Developers Consensus Call #152 Writeup | Galaxy)

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