Rippleのエンタープライズブロックチェーン事業の現在(2024年8月版)
2024年08月17日
この記事を簡単にまとめると(AI要約)
目次
- 1.Ripple社の概要
- 1.1.Ripple社の事業概要
- 1.2.Rippleの歴史
- 2.法人向け事業の解説
- 3.Ripple社のカストディ事業拡大とステーブルコイン導入の考察
本レポートではRippleの事業に焦点を当てて、Ripple社のこれまでの歩み、主な事業内容の整理、2024年8月現在の主な法人向けサービスの解説を行います。
Ripple社がRippleX事業として開発支援を行うXRP Ledgerについては以下のレポートで解説しています。併せてご参考下さい。
関連レポート:XRP Ledger経済圏の現在(2024年8月版)
1.Ripple社の概要
1.1.Ripple社の事業概要
website:https://ripple.com/
X:https://x.com/Ripple
LinkeIn:https://www.linkedin.com/company/rippleofficial/
X:https://x.com/Ripple
LinkeIn:https://www.linkedin.com/company/rippleofficial/
Ripple社は、カリフォルニア州サンフランシスコに本社を構えるビジネス向けクリプトソリューションを提供するグローバルテクノロジー企業です。2012年の設立以来、現在では900人以上の従業員を擁し、世界15拠点から80カ国以上の市場にサービスを展開しています。
同社のビジョンである「価値のインターネット(The Internet of Value)」は、「情報」がインターネットを介して自由に行き来するように、「価値(お金)」も通信技術を通じて瞬時に移動できる世界の実現を目指しています。
Ripple社は、流動性、カストディ、コンプライアンス、オフランプ、トークン化などのブロックチェーン事業を運営するために必要な鍵となるテクノロジーやインフラを提供しています。これらのソリューションは現在、「Ripple Payments」と「Ripple Custody」を含む法人向けのブロックチェーンソリューションを含みます。また、「RippleX」イニシアチブを通して、パブリックブロックチェーンであるXRP Legerの開発支援やコミュニティ支援を行っています。法人向け事業は、送金(Ripple Payments)、カストディ技術ソリューション、トークナイゼーション(ステーブルコインなど)などを含み、グローバルな金融機関、企業、開発者がブロックチェーン技術を活用して、世界中で経済的な機会を創出し、管理できるよう支援しています。なお、この法人向け事業はXRP Leger/XRPに限定されない、幅広く暗号資産とブロックチェーンを活用した金融サービスを提供しています。
一方の「RippleX」事業は、XRP Ledgerに対する新機能の提案や開発支援、コミュニティ発展のための支援などを提供しています。
1.2.Rippleの歴史
2004年
- カナダの研究者Ryan Fuggerが分散型ソーシャルクレジットシステムであるRipplePayを考案。この時点ではBitcoinやブロックチェーン技術は世に存在しておらず、分散型のP2Pネットワークとして開発される。 参考:https://blog.p2pfoundation.net/ripples-in-the-open-money-sphere/2007/09/11
2011年
- 初期のBitcoin開発者であったDavid Schwartz、Jed McCaleb、Arthur BrittoがBitcoinを参考に、マイニングの要素を排除し、より持続可能でスケーラブルな決済に最適化したブロックチェーンを構築したいと考え、XRPLの開発がスタート。RipplePayの思想が取り入れられる。
※rippledの最初のコミットメント:https://github.com/XRPLF/rippled/commit/a8e8613475f178f779fd2800c38175615c118a13#diff-9028c62159e051868fd5201bce82f2e446b8d62ca6c96057cbbaeb7162bd215f
2012年
- 6月:Schwartz、McCaleb、BrittoがXRP Ledgerを立ち上げる。
参照:https://x.com/JoelKatz/status/1205050320297971713 - 連続起業家のChris Larsenが加わり、XRP Ledgerを活用し普及を推進する民間会社としてNewCoin社を設立。後にOpenCoin、最終的にはRippleに改名。
- RyanFuggerがRipplePayプロジェクトをRippleに譲渡。
- XRPL稼働と同時にXRPトークンが生成され、その後創業者が全供給量の8割をRippleに譲渡。
2013年
- OpenCoinがRipple Labsに改名。
初期の頃から、OpenCoinはグローバル金融システムを改革することを目的として事業を行う。ビットコインの初期の信奉者の革命的な思想とは対照的に、ラーセンはブロックチェーンは既存の金融システムを転覆すべきではないと考えていた。彼は、歴史上の最も変革的なアイデアは、既存の素晴らしいアイデアを代替するのではなく、礎としていると信じていた。
- Ripple社の創業者の一人、Jed McCalebが退社し、その後、Stellarという類似のネットワークを構築。
2014年
- McCalebは開発チームメンバーの1人として受け取った90億XRPを売却し始めた。
- XRPが時価総額第2位の暗号通貨となる。
2015年
- Ripple社は、FinCENに登録せずに暗号資産を販売したとして、米国の規制当局から罰金を科される。罰金を支払い、適切に登録し、必要な管理を導入・実施。 参考:https://www.fincen.gov/news/news-releases/fincen-fines-ripple-labs-inc-first-civil-enforcement-action-against-virtual
- XRP Ledgerを活用した、金融機関向けの国際送金のソリューションに本格的に着手。
2016年
- SBI Holdingsと合弁会社(SBI Ripple Asia)を設立。
2017年
- SBI Ripple AsiaがRipple社の国際送金ソリューションを日韓に導入開始。
- Ripple社が保有するXRPのうち550億XRPをエスクローへ。エスクローでロックアップしてあるXRPは毎月10億XRPずつリリースされる仕組みになっている。参考:https://xrpl.org/blog/2017/explanation-of-ripples-xrp-escrow/
2018年
- University Blockchain Research Initiative (UBRI)をローンチ。
2020年
- XRP Ledgerの成長と普及を推進するため、独立非営利のXRPL財団を発足。
- 12月:SECがXRPトークンの無登録証券募集を行ったとしてRipple社を起訴。法廷闘争が始まる。
2021年
- 日本においてOn-Demand Liquidity(オンデマンド流動性)サービスを開始。
2023年
- パリを拠点とする新たな財団 XRPL Commonsが発足。
参考:https://www.xrpl-commons.org/newsroom/press-release - スイスに拠点を置くMetaco社を買収し、暗号資産カストディ事業に参画。
- 7月、判事が、Ripple社とCEO Brad Garlinghouseと共同創業者Chris Larsenに対するSECの訴訟に判決を下す。暗号資産XRPは、それ自身は証券ではなく、連邦証券法上の有価証券である「投資契約」には該当しないとした。 この判決の主要なポイントは以下の通り。
- トークンであるXRP自体は投資契約には該当しないため、それ自体は証券ではない。
- Ripple社の取引所でのXRP販売は証券ではない
- Ripple社の役員によるXRP販売は証券ではない
- 開発者、慈善団体、従業員など多岐に渡るRipple社のXRPの配布は証券ではない
- Ripple社の契約書に基づく特定の販売はXRPの機関投資家向け販売は投資契約であり、つまり証券であるは未登録証券募集に該当する
- 参考:Q2 2023 XRP Markets Report
2024年
- リップル社がUSDステーブルコインをXRP LedgerとEthereum上で発行する計画を発表。
- 米国の暗号資産カストディプロバイダーのStandard Custody社を買収。
- 8月、2023年7月に下された判決によって、SECはRippleに特定の罰金の支払いを求める権利を得た。SECは20億ドルの支払いをRippleに求めたが、トーレス判事はRipple社に1億2,503万5,000ドルの支払いを命じる判決を出した。
2.法人向け事業の解説
本節ではRipple社が法人向けに提供する主な3つの事業を解説します。
- Ripple Payments
- カストディソリューション
- ステーブルコイン
2.1.Ripple Payments(国際送金ソリューション)
Ripple Paymentsは、リアルタイムの国際送金を実現するためにRipple社が開発した分散ネットワークです。双方向メッセージング層と決済層の2つの主要な層で構成されており、メッセージング層がトランザクション通信を容易にし、決済層が資金の最終的な送金を保証しています。
またODLと呼ばれるRipple Payments独自の流動性管理ソリューションによって、送金先市場での事前資金の調達なしに、即時かつ効率的な国際送金を実現します。XRPをブリッジ通貨として使用し、オンデマンドで流動性を調達します。
運用プロセス
- 支払いの開始: 送信者(Ripple Paymentsに接続された金融機関)は、Ripple PaymentsのAPIを通じて支払い指示を送信。
- 通貨交換: 送信者の通貨はデジタル資産取引所でXRPに変換される。
- XRP Ledger経由の送金: XRPはXRP Ledgerを介して、受取人の国のデジタル資産取引所に送信される。
- 現地通貨への変換: 受取人の国のデジタル資産取引所がXRPを受取人の現地通貨に変換。
- 支払い完了: 受取人の現地通貨が受取機関に送金され、最終受取人に支払われる。
例えば、米国の企業が日本のサプライヤーに支払いをする場合、従来のSWIFTを活用した方法では数日かかり複数の手数料が発生しますが、Ripple PaymentsとODLを使用すると、数秒以内に支払いが完了し、コストも低減されます。
2.2.カストディソリューション
カストディソリューションの概要は、次節にて現在のRipple社の戦略に関する考察と併せて解説します。
2.3. ステーブルコイン
ステーブルコインの概要は、次節にて現在のRipple社の戦略に関する考察と併せて解説します。
3.Ripple社のカストディ事業拡大とステーブルコイン導入の考察
Ripple社は近年、XRP等の暗号資産を中心としたクロスボーダー決済のブリッジ通貨としての役割を拡大するだけでなく、カストディソリューションを軸にした事業展開を積極的に行っています。
2023年5月には、デジタル資産カストディ・テクノロジー企業であるMetacoを買収。さらに、2024年2月にStandard Custody & Trust Companyを買収し、Ripple社は米国内での規制ライセンスを拡大しています。これらのカストディ事業の買収を経て、ニューヨーク州の信託免許を取得し、米国内での規制対応を強化、同社の規制ライセンスポートフォリオを拡大しています。
さらに、2024年4月には、Ripple社はXRP LedgerとEthereum上で米ドルのステーブルコインをローンチする計画を発表しました。このステーブルコインは米ドル預金、米国の短期国債、現金同等物に100%裏打ちされたものであり、これらの準備資産は第三者の会計事務所によって監査され、Ripple社は毎月証明書を発行する予定となっています。
Ripple社は現在、XRPに加え、提供するプロダクトのライセンス収入など、多様な収益源を有していますが、今回、新たに発表されたステーブルコインの導入により、ステーブルコイン事業を通じた新たな収益源が加わることになります。
ステーブルコインは、クロスボーダー決済において安定した価値を提供し、現地通貨の不安定性を回避する手段として特に有効であり、特定の法域ではドルを保持する方が安定的な選択肢となる場合に役立ちます。加えて、ステーブルコインは伝統的な金融システムと分散型金融(DeFi)を繋ぐ重要なツールとして機能し、これにより金融機関が容易にDeFiエコシステムに参加できるようになります。
ステーブルコインの導入はXRPの役割に影響を与える可能性を指摘する声もありますが、長期的にはRipple社のコア事業を補完し、機関投資家向けDeFi基盤としての整備が進むXRP Ledgerの有用性を高めることでXRPにも好影響をもたらす可能性もあります。
このように、Ripple社のカストディ事業拡大とステーブルコインの導入は、同社の戦略的成長と市場における地位強化の一環として理にかなった動きだと評価でき、将来的な収益機会と技術革新を促進するだけでなく、Ripple社が描く金融の未来に向けた重要なステップとなることが期待されます。
※免責事項:本レポートは、いかなる種類の法的または財政的な助言とみなされるものではありません。