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Web3の片鱗(0)|Web3が描くクリエイターエコノミーの産物【仮説編】

2022年06月06日

目次

  • 前提
  • ボトムアップで作られるコンテンツとは何か
  • キャッサバの食し方とその伝承|信じて従う(群れる)ヒトの心の正体
  • 不自由なインターネット環境に生じるボトムアップ社会の産物|テクノロジーによるヒトの教育

前提

※「Web3の片鱗」シリーズはレポートではなく、Web3界隈の断片的な気づき(結論のない、so,what/だから何)を記したエッセイです。「Web3が描くクリエイターエコノミーの産物【仮説編】」はその(0)として記したものです。
本レポートではWeb3メディアプラットフォームMirrorが2022年5月に実装した新機能「Writing NFT」をベースにクリエイター個人が作るNFTの実態を覗き、Web3クリエイターエコノミーの産物とはどのようなものかを【仮説編】と【検証編】の二本立てで論じます。本レポートはその【仮説編】です。
Blogが前面に出ているDappsと聞くとWrite to Earn系がイメージしやすいですが、Mirrorは少し異なります。現状でもWrite to Earnも僅かながら存在し、将来的にそこを前面に出してくる可能性自体は否定できませんがコンセプトとしては違うのだと考えられます。

出典:Mirrorの概要 -マネタイズやガバナンスをサポートする次世代プラットフォーム-
Writing NFTという名称からは、noteやSteemitのようなテキストコンテンツの収益化をサポートするようなサービスを容易に連想してしまいますが、実態は果たしてその印象通りのものなのでしょうか。
上記レポートにあるように、そもそもMirrorというサービスはWrite to Earn、とは少し異なる雰囲気を帯びたサービスです。今回のWriting NFTも誰もが書き物をNFT化して販売することはできるものの、「何かしらの権利を主張する」NFTという文脈下では「価値あるコンテンツを書きました、この価値を購入してください」「はい、買います」とはなかなかなりません。また、そもそも対象を消費者(読者)とするのであればnoteでも良い話なのでは、とも思います。
同じように「価値あるコンテンツを作りました。応援してください」「はい、応援します」という活動はたまに見かけます。しかし、「クリエイターのありがとう」を貰いたいファンを対象にしたいのであれば、わざわざ一手間かけてNFTを噛ませずに投げ銭で処理をすれば良い話なのではないかという疑問も湧いてきます。
実際のところ、Mirror公式はWriting NFTをどのような需要を想定して実装したのでしょうか。公式によるアナウンス「Introducing Writing NFTs」では以下のように説明しています。
Adding a Writing NFT to your collection is a way of capturing these special moments and rallying behind the potential of an idea. Imagine, for instance, having proof that you were one of the first 100 people to read the Ethereum whitepaper. It not only signals that you were an early adopter or superfan, but it also binds you with other collectors of that Writing NFT.

Writing NFTをコレクションに加えることで、このような特別な瞬間を記録し、アイデアの可能性を後押しすることができるのです。たとえば、Ethereumのホワイトペーパーを読んだ最初の100人のうちの1人であることを証明するものを想像してみてください。アーリーアダプターやスーパーファンであることを示すだけでなく、そのWriting NFTの他のコレクターとの絆を深めることができるのです。 (拙訳)
公式の発言から要点を2点抜き出します。一つは「①特別な瞬間の記録」、たらればとしてEthereumのホワイトペーパーを読んだ最初の100人であったことを証明できたなら、を挙げています。もう一つは「他のコレクターとの絆を深めることができる」、つまり、NFT取得後の「②未来のシナリオへの関与権」のようなものを想定していると捉えるならば、何かしらのリターンを期待したユーザーを対象にしているように感じます。
①の需要は確かに存在し、間接的に評判というリターンを得るという事もありますが、どちらかと言えば②に対する期待でNFT購入を動機付けられるものが多数派であるような印象を受けます。
この公式の発言通りのシナリオを鵜呑みにするのであれば、Writing NFTはコンテンツの読者を対象とするnoteとも異なります。また、ファンによるその場の「ありがとう、応援してます」という感情の消費を代替する投げ銭とも若干異なり、①のような「確かな証拠」をもとに②のような「その後のお付き合いや特典」に対する期待を、スーパーファンやアーリーアダプターに購入してもらうようなものとして捉えられるのではないでしょうか。つまり、noteや投げ銭のような即時の価値交換ではないということです。
少しここまでの仮説を簡単にまとめると、Writing NFTとはつまり、今の販売ではなく、未来の販売であり、言い換えるならば、今提示されているテキストの販売ではなく、このテキストから期待する未来をNFTを介して販売することを目的にしているということになります。つまり、見込まれる需要は「消費」ではなく将来のリターンを期待する「投資」の意味合いの方が強いように思えます。※ただし、必ずしも金銭的なリターンのみを期待するわけではありません
実際にそうであるならば、それはブログプラットフォームではなく、クラウドファンディングプラットフォームのようなものです。またテキストコンテンツに対する評価は、そのテキストそのものではなく、そのテキストが期待させる未来のリターンの魅力度と実現可能性で測られることになります。
過去は大抵Mediumで記事を出すプロジェクトが多かったのですが、最近はMirrorを利用するプロジェクトが増えました。これは多くのユーザーにMirrorを触れさせる機会を提供している事から、Blog機能は一種のマーケティングツールという側面があるのかもしれません。

出典:Mirrorの概要 -マネタイズやガバナンスをサポートする次世代プラットフォーム-
「Mirrorはクラファンのような未来に対する期待を販売するプラットフォームである」という仮説は以前@shingen_crypto氏が上記レポート内で語った仮説と類似するものであり、氏の言葉の通り、確かにMirrorのブログ機能は一種のマーケティングツールであると言えるのかもしれません。

ボトムアップで作られるコンテンツとは何か

話は変わりますが、今回Mirror開発チームは高品質コンテンツをより発見しやすくする機能を実装してほしいというユーザーの要望に応える形で、リーダーボード(ランキング)とコレクタープロファイルページをWriting NFTと同時期に追加しています。
公式アナウンスでは「高品質コンテンツの発見」を改善するために、としています。リーダーボードの上位に位置するコンテンツが価値あるコンテンツであるのは確かにそうなのかもしれませんが、先の仮説が正しいのであれば、上位にランクするコンテンツは「リターンを期待できるコンテンツとして優れている」になりやすいのではないかとも感じます。
極端な見方をするならば、ここで評価される高品質コンテンツとは「コンテンツそのもの」ではなく、「別目的であるリターンを期待させる扇情的なコンテンツ」のことを指すようにも思えます。これはライターの自由な創作をサポートするというよりも、扇情的なコンテンツ作りを動機づけるような仕組みであるようにも思え、これをクリエイターエコノミーと称するには些か主語が大きすぎるように感じます。
Cabin開発チーム著「Memes of Production: DAOs as Financial Flash Mobs and Hyperstructures」ではミームを求心力に群れて、ボトムアップで盛り上がるDAOのことをフラッシュモブに喩えて、ファイナンシャル・フラッシュモブのようだと揶揄しています。この表現が内包する要素にボトムアップ方式のクリエイターエコノミーの実態が映し出されているように思えます。

Web3の文脈でボトムアップ方式という言葉が用いられるとき、そこには「ボトムアップ方式の創作」の意が込められているものと筆者は解釈していますが、一方で実際のWeb3の文脈に表れるファイナンシャル・フラッシュモブを展開するような創作物は「ボトムアップ方式の評価」が扇動した創作物であるように感じます。これは似ているようで別物であり、後者の意味であれば「顧客中心」のコンテンツをトップダウンで作る産物と同じような偏りを示すようになるでしょう。もちろん制作過程の透明性を高めるであったり、プロセスへ参加できるであったりという新たな体験があるため、「顧客中心」のプロダクト作りをよりポップに発展させたものがWeb3であると解釈できますが、そこからアウトプットされたものは「ボトムアップ方式の創作」から連想される自由な創作物ではなく、クセのある何かです。
今回はあえてWeb3クリエイターエコノミーの核心部分とも言える制作プロセスではなく、結果であるアウトプットにのみ焦点を当ててクリエイターエコノミーを論じてみたいと思います。

この「ボトムアップ方式の評価」が意味するところを理解するために、まずはものごとの意思決定や評価、フラッシュモブに参加することを期待されるWeb3構成員である我々ヒトという生き物への理解を深めていきます。次節ではまずこのモヤっとしたヒト像の霧を晴らすために「キャッサバの食し方とその伝承」について解説します。なお、冗談ではありません。そんなことはわかっているという方は【検証編】の「Writing NFTとは何を表すものか」まで読み飛ばしてください。
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