オンチェーンは実務インフラへ|企業財務DATCoとRWAの加速:リサーチチームが選ぶ今週の注目トピック 2025年11月7日号

2025年11月08日
この記事を簡単にまとめると(AI要約)

目次

  • 前提
  • 今週のインサイト
  • 今週1週間分のニュースを紹介
    • ▍RFQはDeFiの「合成可能性」を阻害する:Prop AMMがもたらすオンチェーン戦略の進化
    • ▍EthereumとSolana、スケーリングの進化と費用の抑制
    • ▍DATCo市場が爆発的成長:2025年に76社が参入し$42.7Bを投じる
    • ▍詳細分析:Balancer V2 エクスプロイト
    • ▍クリプト・ネオバンキング時代の到来:自己管理と高利回りの融合
    • ▍FRBの「ステルスQE」が迫る:Bitcoin強気相場の金融学的根拠 by Arthur Hayes
    • ▍RWA市場が金融インフラに進化、アジアがトークン化を牽引
    • ▍クリプト市場の成熟:ステーブルコイン、スケーリング、プライバシーが牽引
    • ▍CaaSがWeb3を主流化:金融、Fintech、決済のインフラがAPIで統合へ

前提

本レポートでは、最新のクリプトやWeb3市場、オピニオンに関する記事やスレッドをまとめています。各記事の要点を把握し、トレンドやインサイトを効率的にキャッチアップできる内容となっていますので、ぜひご活用ください。
また、本シリーズは今週1週間分のニュースをまとめたものになります。リアルタイムで情報をキャッチアップしたい方は、「HashHub Research ニュース」をご利用ください。

今週のインサイト

今週は、「オンチェーンが実務インフラへ移行する過程」が共通テーマだったように感じます。例えば、次章で取り上げている「RFQとProp AMMの対比」は、価格提示をオンチェーンに戻すことが合成可能性と原子的実行を拡張する要件であることを示唆します。また、EthereumのL1・L2とSolanaの設計差は、混雑の見え方とコスト負担の配分という運用設計の論点を鮮明にし、ピーク需要下でも体験を平準化するための選択肢が拡充しています。
さらに企業財務では、DATCoの急拡大が恒常的な買い手を形成しつつ、集中リスクと開示ガバナンスの重要性を浮き彫りにしました。その他にも、Balacerの広域エクスプロイトは丸め規則と数値安定性という足回りの厳密さを再確認させますし、Coinbaseの垂直統合やCaaSの普及、RWAの制度化は「組み込み型クリプト」を後押しし、ステーブルコインの実需拡大とプライバシー要件の台頭はプロダクト前提を更新しています。なお、マクロ面ではFRBの流動性供給メカニズムが中期的追い風となる可能性があり、総じて合成可能性・スループット・準拠性・運用耐性の四軸で意思決定を磨くことが次の成長を左右すると言えるでしょう。

今週1週間分のニュースを紹介

▍RFQはDeFiの「合成可能性」を阻害する:Prop AMMがもたらすオンチェーン戦略の進化

要旨

本稿は、EVMチェーンにおけるRFQ方式が高い実効レートとスリッページ回避を提供しつつも、DeFiの中核概念であるコンポーザビリティを十分に満たせない点を指摘し、オンチェーンで価格を提示するProp AMMがその欠落を埋める重要な構成要素であることを論じます。RFQは価格探索をオフチェーンで行うため原子的な多段取引に組み込みにくく、対してProp AMMは頻繁に更新されるオンチェーン価格を他コントラクトが即時参照できるため、戦略の原子実行と高度な合成が可能になります。

モデルの整理

RFQはテイカーの意図送信に対し、メイカーがオフチェーンで見積りを返し、テイカーが最良気配を選んで署名実行する非同期の見積り取引です。大口や時間制約の緩い約定で強みを発揮します。一方、Prop AMMはAMMプールを持ちながら、価格曲線を単純な定数積ではなくプロップトレーダーが外部市場に追随する形で高頻度に更新し、その結果の価格をオンチェーンに確定させます。最大の違いは価格決定がオンチェーンで完結する点にあります。

コンポーザビリティの意義

コンポーザビリティは複数プロトコルを単一トランザクションで原子的に結合できる性質を指し、フラッシュローンを用いた裁定、清算回避のための担保入替え、自主的なデレバレッジのような一連の処理を条件付きで安全に実行できます。前提は実行時に参照する価格や状態がオンチェーンで即時に取得でき、かつその値に基づく分岐と約定が同一トランザクション内で完結することです。

RFQの限界

RFQは価格探索がAPI経由でオフチェーンに分離され、有効期限や充足要件が絡むため、実行時に価格を読み取り条件分岐する原子的ロジックに組み込みづらい構造です。見積りを事前に取得してカレントデータとして渡す方式では、金利や必要残高が僅かに変化しただけでトランザクション全体が失敗し、再見積りと再送が必要になります。オフチェーンルーターがAMMとRFQを束ねて一括実行する統合UXが成立しても、ルーター自体がオンチェーン条件分岐の一部として呼び出せない限り、スマートコントラクトの実行時意思決定という意味でのコンポーザビリティは担保されません。また、期限ギリギリのテイカー行動と高い充足義務が組み合わさるとメイカーにとって不利な選択バイアスが生じやすく、市場構造上の歪みも指摘されます。EVMのRFQ実装でも、署名順序やオンチェーンクロージャの違いはあっても、本質的な非同期性という制約は残ります。

Prop AMMの解決策

Prop AMMは価格が既にオンチェーンで公開されているため、契約は実行時に価格を読み取り、条件が合致すればフラッシュローンの借入、安いプールでの買い、高いプールでの売り、返済までを一気通貫で原子的に処理できます。この効用はプールが公開インターフェースを備え、他コントラクトから直接参照可能であることが前提です。Solanaの一部実装のようにIDLやアクセスが私有化されオフチェーン集約を前提にすると、結局オンチェーン合成の利点は削がれます。なお、Prop AMMが裁定で不利になるとの懸念は、メイカーがブロック先頭で外部価格に追随しており、裁定の相手が往々にして遅延した通常AMM側になる点や、メイカー自身が裁定を取りに行ける点から緩和されます。総じてProp AMMはCEX価格を効率的にオンチェーンへ持ち込み、合成可能な価格参照点を提供する役割を果たします。

結論

RFQは目的適合的であり、大口のスリッページ回避約定には非常に有用です。しかし、DeFiの優位性である原子的な戦略合成を支える土台にはなりにくく、オンチェーンで即参照可能な価格を提供するProp AMMは依然として不可欠です。EVM圏では、RFQが整備されていても、公開かつ合成可能なProp AMMが導入されることで、実行時条件分岐を伴う複雑戦略の幅と効率が大きく拡張します。

今後の論点

公開インターフェースを持たない実装に対して、オンチェーンから直接相互運用可能にする手法がどこまで許容されるかが検討課題です。また、最も強い需要を持つユーザー群はどこかという点では、清算耐性と資本効率を重視するアービトラージャー、マーケットメイカー、レバレッジ運用者、ボールトやアグリゲーターなどの戦略実装者が筆頭となり、これらの主体にとっての原子的実行の価値命題を、運用コストとガス制約の中でどう最大化するかが次の検討軸になります。

▍EthereumとSolana、スケーリングの進化と費用の抑制

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